祭り・イベント総合研究所

【対談】岸川雅範(神田神社禰宜)×山本陽平(祭り・イベント総合研究所 代表)|これからの時代の祭りや神社の在り方とは?

作成日:2021/7/30
更新日:2021/10/30
【対談】岸川雅範(神田神社禰宜)×山本陽平(祭り・イベント総合研究所 代表)|これからの時代の祭りや神社の在り方とは?

はじめに

神社や神道の文化を伝える「和」と神社の幸せ情報誌『和合(WAGO)』では2021年の新シリーズとして「和合インターナショナル 和の心」を開始し、神道を通じて和の心を国内外に訴求する取り組みを行っている。令和3年第40号(2021年7月1日発行)では、東京の中心(神田、日本橋、秋葉原、大手丸の内、旧神田市場、築地魚市場)、108町会の総氏神様である神田神社(通称:神田明神)の岸川権禰宜、全国の祭りの主催者をサポートする株式会社オマツリジャパン「祭り・イベント総合研究所」らによる対談が掲載された。
対談ではそれぞれの立場から、これからの時代の祭り・イベントや神社の在り方について意見を交わした。その内容を抜粋してお伝えします。

写真右:神田神社・岸川禰宜、中央:祭り・イベント総合研究所・山本、左:玉川大学講師・山崎敬子(進行役)


【岸川さまプロフィール】
昭和49年(1974年)東京生まれ。神田神社禰宜。國學院大學兼任講師。國學院大學文学部神道学科卒、國學院大學文学研究科神道学専攻博士課程後期終了。博士(神道学)(國學院大學)。著書に『江戸天下祭の研究ー近世近代における神田祭の持続と変容』(岩田書院、2017年)、『江戸の祭礼』(KADOKAWA、2020年)など。
 

神社とアニメとプロレス

和合 編集部 神田神社さんの「江戸東京夜市」もオマツリジャパンさんが関わった、と伺っております。
山本 3年前、地域の観光資源や文化財を活用したコンテンツを作れないか、という国の勧める事業がありまして、神田明神さんで夜市ができないかと相談をいただきました。全体のプロデュースや、全国各地のお祭りの団体をお手伝いとして派遣したり、新しいイベント性があるものをプロデュースしたり。まだコロナ前でしたから、外国人の方々にも訪れてもらいたい、ということを主眼に毎月取り組んだのが、神田明神さんとの最初の関わりですね。
岸川 日本は夜も安全ですので、夜のイベントというものを外国人観光客受け入れのために国も勧めていましたし、神社仏閣はとくに安全だから、神田明神で夜に「江戸東京夜市」というものを当社文化交流館地下1階・EDOCCO STUDIOを運営する株式会社COCORO様のほうで開催いたしました。

2019年に開催した「江戸東京夜市」の様子


2019年に開催した「江戸東京夜市」の様子


山本 それがやれた環境というのも、神田明神さんの懐の深さというか、いろんな現代文化を受け入れてきた、柔軟な度量があったからだろうと思います。「納涼祭り」にしても神田明神さんならではの取り組みだったと思います。あのようなお祭りがいろんな神社さんでできるようになると面白い、と考えていたところでした。どうして神田明神さんは、そこまで大きな許容量というか度量をお持ちなのでしょう。
岸川 「納涼祭り」は数年前、当社の大鳥居信史名誉宮司が宮司の時に「夏に賑やかなお祭りをしたい」ということで始めたものです。3日間の3部構成になっております。(中略)夏に屋台が賑やかに出ている神社のイメージも非常に大事だと思っています。神社というと「神々の鎮座する神聖な場で、祈りの場」というイメージがありますが、境内に屋台が出て飲食をする場合もあります。それは、神社が神聖なお参りをする場であると同時に、人々で賑わう盛り場でもあるということです。それは少なくとも江戸時代からの話で、神社の多くは芝居小屋(宮地芝居)、矢場、茶屋などのある賑わいの場、さらに名所という観光地でもありました。当社はその歴史から学び、「納涼祭り」などを行っています。
話は戻りますが「江戸東京夜市」では、プロレスもやったことがあるのですが、とあるメディアから「神社でプロレスをやるのは不謹慎ではないですか?」と訊かれましたが、こうした神社の歴史を知っていましたので、逆に「どうしてですか?」と聞き返しました。「神社は神聖な祈りの場のみ」というイメージが大きかったのではないかと思います。しかし、今でも町の神社は、境内でフラダンスなどの踊りを奉納したり、地元の人たちがカラオケ大会をやったり、本来、人々が集まる場でもあるのです。
もちろん、全国に8万社以上ある神社全てに該当するわけではありません。神社にはそれぞれ特徴があります。お祀りする神様も違いますし、氏子町の特徴も違いますし、人も一人一人違います。

神田祭でお神輿を担いだ時のオマツリジャパン社員の一コマ。

お祭りは誰のもの?

和合 編集部 今、日本では少子高齢化がすごい勢いで進んでいて、地方では神輿の担ぎ手がいなくなったので、トラックに乗せて町を渡御しているところもあります。
岸川 それが今の新しいお祭りの形の一つになりつつあるのですね。
(中略)
北海道のお祭りでは、山車を耕運機が曳いています。かつて山車は牛が曳いていたのですが、今は牛の役割を担っている耕運機がその役割を果たしているとのことです。「え、機械を使うの?」ということになるのですが、そういうことを始めつつあるのが地方であり、実は地方から都心へとお祭りの文化が入ってきている面もあるのです。
和合 編集部 多少はお祭りにあり方が変わっても、神社が聖俗を備えた、皆んなが集える場所ということだけは変わっていません。そこが今後も大事になるのではないでしょうか。そこで何を見せるのかということで、あたらしい動きをオマツリジャパンさんもされているのだと思います。
山本 我々もどこにでも入っていくわけではなく、地域の人々が「こういう思いなので、一緒にやってくれないか」というところへ行きます。まず地域の人々の思いがないと、入れないのです。
トラックでの神輿渡御ということも、地域の一つの選択として理解すべきだと思います。ただ、それを変えたいという人たちがいるのでしたら、体験ツアーとかを行って、なんとか変えていく。デジタルでもいいから、少しづつ変えていく。そういうことを我々はお手伝いしていきたい、と思っています。
岸川 そもそもお祭りは、神田明神の神田祭りもそうですが、氏子さんが主役なのです。神職は「仲執り持ち」として、氏子さんと共にお祭りに奉仕します。お祭りにおいて、一番大切なのは氏子さんたちで、氏子の人たちの意思なのです。
いくら神職が「お祭りを頑張ってやりましょう」と言っても、町の人たちが「コロナ禍で町も不景気で、お金も集まらないし……」「お祭りでコロナが出たというようなことになったら、後世までの恥になってしまう」という気持ちがあるなら、斎行するのは難しいと思います。他の神社の氏子さんたちにも、残念ですが、コロナ禍でそういう思いはあるのではないでしょうか。

2019年の神田祭の様子

文化は変わっていくもの

続きはコチラ和合インターナショナル (3)
 
 

ざきさん

この記事を書いた人

ざきさん

山崎敬子(やまさき けいこ)

1976年生まれ。実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から三隅治雄・西角井正大両先生から折口信夫の民俗芸能学(折口学)を学び、全国の祭礼を見て歩く。現在、玉川大学芸術学部や学習院大学さくらアカデミーなどで民俗芸能の講座を担当しているほか、(一社)鬼ごっこ協会・鬼ごっこ総合研究所、(社)日本ペンクラブ、(株)オマツリジャパンなどに所属し地域活性事業に取り組んでいる。ほか、日本サンボ連盟理事 。

【実績一例】
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)ほか
コラム:
「鬼文化コラム」:(社)鬼ごっこ協会 
「氷川風土記」:武蔵一宮氷川神社 など
漫画:
「北越雪譜」4コマ:協力/鈴木牧之記念館(新潟県南魚沼市塩沢1112-2)

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