祭り・イベント総合研究所

【対談】青森県観光企画課・鈴木耕司課長×山本陽平(祭り・イベント総合研究所 代表)|ガイドラインをもとに祭り・イベント開催を目指す青森県の取り組み

作成日:2021/6/24
更新日:2021/11/6
【対談】青森県観光企画課・鈴木耕司課長×山本陽平(祭り・イベント総合研究所 代表)|ガイドラインをもとに祭り・イベント開催を目指す青森県の取り組み

はじめに

青森県では本年3月下旬に「青森県祭り・観光イベント 新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン (*1)」を発表し、祭礼やイベントにおける新型コロナウィルス感染症対策にいち早く取り組む姿勢を内外に示した。
同ガイドラインは青森県観光国際戦略局が制作。青森県観光国際戦略局、公益社団法人青森観光コンベンション協会、青森市観光課、一般財団法人VISITはちのへ、つがる地球村株式会社、十和田湖冬物語実行委員会事務局、弘前市観光課が共同製作者として加わっている。同ガイドラインのプレスリリースには「貴重な観光資源であり地域コミュニティの基盤でもある祭りや観光イベントを、感染防止対策に十分配慮して安全・安心に開催できるよう、感染症と催事の専門家の監修のもと、専門的知見や先進事例を踏まえ、モデルケースでの検証を経て、祭り等を主催する県内6団体と共同で「主催者が実施すべき事項」や「参加者が守るべき事項」等を取りまとめたものであり、市町村や祭り等の主催者と共有していくものです」とあり、地域に根差したガイドラインであることが伺える。
事実、今春、青森県では弘前さくらまつりなど祭り祭礼10件が開催されており、地域でガイドラインが活用されていることが実証された。
この度、我々「祭り・イベント総合研究所」では、このガイドライン策定に関わった青森県観光企画課の鈴木耕司課長に話を伺いました。
鈴木氏プロフィール
氏名:鈴木耕司
肩書:青森県観光国際戦略局観光企画課長

対談風景 画面下段左:鈴木課長 画面右上:祭り総研代表 山本

「(まつりを)やりたい」という地域からの想いで生まれたガイドライン

山本 「青森県祭り・観光イベント 新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」を策定するに至った理由などお聞かせください。
鈴木 昨年から始まったコロナ禍ではどの県も同じ状況だったと思いますが、青森県も県内のまつりが軒並み中止となりました。まつりは観光資源として、また、飲食業など地域産業とも関わりが大きいため、中止の影響は大きくなります。特に青森県では、春は桜まつり、夏はねぶたまつりといった具合に季節の祭礼は観光の軸でもあります。昨年、新型コロナウィルス感染症が拡大し始めたころは、初めての事態なのでどうしたらいいか、どう対応したらよいか、答えを明確に出せずにおりました。同時に新型コロナウィルス感染症に対する対策やその効果も分からない状況でした。しかし何らかの対応はとらねばなりません。例えば「青森ねぶた」は棟上げを比較的早く行うため、その準備が始まる前の段階で判断が必要でした。結果、2020年の4月初めに青森ねぶたは中止を決定しました。
山本 当時、全国的認知度を誇る青森ねぶたが早めに中止を決定したことが報道され、各地の祭礼主催者にも影響を与えたと思います。
鈴木 そうかもしれません。その後新型コロナウィルス感染症の状況の把握が始まり、その対策についても分かるようになってきました。ある程度の対策が打てるようになってきた環境の中で、冬のまつりなど地元のまつりや地域の人が楽しめるまつりを「自分たちでやれる範囲でやりたい」という声が地域から上がってきました。その声を受けて、今回のガイドラインを作ることとなりました。私たち行政側だけの想いで作成したのではなく、地域からの「(まつりを)やりたい」という想いの声があったからこそできあがったものです。

地域を第一に考え、疫学専門家やまつり専門家の声を反映

山本 地域からの声に応えた結果なのですね。また、このガイドラインが画期的だと私が思うことがあります。この類のガイドラインの場合、疫学の専門家の目線に特化して作成されたものが多いと思われる中、青森県のこのガイドラインは疫学者に加え、まつりの専門家の見識も入れている点です。また、各領域の専門家が集まり、「どこがダメか」「どこまでならいけるか」を深く考えている点と、その意見を疫学者も理解していることが画期的です。
鈴木 今回のガイドライン作成にあたってくださった疫学専門家の岡田悠偉人氏(ハワイ大学教授)が、青森県にもご縁があり、青森という地域への理解をお持ちだった事も大きかったと思います。若くて意欲的で、青森に理解がある方と組めてよかったと思います。

監修代表者はハワイ大学 疫学専門家・岡田悠偉人氏

ガイドラインを活用して開催された「弘前さくらまつり」

山本 ありがとうございます。ちなみに本年度の青森県のまつりの現状についてはいかがでしょうか。
鈴木 昨年の今頃、つまり春ごろの祭礼はほとんど中止でしたが、今春は10か所で開催されました。これは間違いなくこのガイドラインが一つの目安になったといえるでしょう。今春は、県内の複数圏域でクラスターが発生しており、ガイドラインで定めたフェーズでいいますと「レベル4」に該当するため、ガイドラインに則って中止を決定したところもあります。一方、圏域の感染状況や地域の実情により開催するとした場合は、主催者等の判断を尊重するとともに、地域で独自にガイドラインよりも厳しいルールを決めて、対策を徹底するよう注意喚起を行いました。その結果、クラスターが発生していない地域などではガイドラインを超える徹底したルールをつくり、我々とも協議を重ねて実施を決めたところもあります。大きな所では弘前市と十和田市です。青森県では、感染状況にもよりますが、「対策を徹底できるならやる、できないならやらないという」最終的な判断は、地元自らが行うようにしております。

 

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山本 「弘前さくらまつり」(*3)は全国的に認知度が高い、特に大きなまつりですね。
鈴木 はい。「2021弘前さくらまつり」では会場の入り口を限定し、入場者を特定するなど入場管理したほか、飲食の制限や動線を一方通行にするなどの新型コロナウィルス感染症対策を徹底して開催しております。普段250~260万人ほど来場するまつりですが、本年は20万人ほどの来場になりましたので、例年の10分の1です。やはり、県外での緊急事態宣言や団体旅行の催行がなかったことに加え、さくらが咲くのが例年より早かったこと、などが要因と思います。
山本 市内・市外・県外など含めて20万人に抑えていることや、徹底した対策で開催されたことは、全国のまつり関係者にとってとても参考になると思います。また、対策を徹底できるところは実施したということで、今春は10か所が実施されたことも他地域のまつり関係者にとっては明るいニュースです。とはいえ、対策を厳格に行うと、どうしても経済効果は厳しい結果になりえます。例えば「2021弘前さくらまつり」では経済効果についてはどう捉えられたのしょうか。

経済効果より「開催すること」をみんなで目指して成功へ

鈴木 新型コロナウィルス感染症の感染防止のカギは飲食にあることは周知の事実と思います。弘前さくらまつりも同様で、期間中は園内への飲食の持ち込みを含め、園内の指定されたエリア以外の飲食は一切行わないことにしました。園内に7か所飲食エリアを作りましたが、ここでも徹底したコロナ対策や人数制限を行って多人数にならないように注意を払ったほか、食べ歩きを禁止、出店で出される料理はすべてパックに入れて持ち帰っていただいております。このように厳密な対策を図った結果、出店の売上は10分の1ほどだったと伺っております。経済効果という意味ではバランスをとることは今の段階では難しいかもしれませんが、コロナ禍の中で「現実的に(まつりを)開催する」ことと、「弘前公園内でさくらを楽しむ」ことを開催のゴールにしておりましたので、今回の開催ではこのゴールに向けた動きをしっかりとれたと考えております。
山本 これは説得力があるゴール設定と結果ですね。

会場管理と飲食管理は常に大切なカギ

山本 今回、ガイドラインを策定にあたり注意を払った点や、策定されて気が付いたこと、どう利用していきたいかなど、今後の展望についてお聞かせください。
鈴木 まず、まつりや観光のイベントは時期や開催方法も千差万別で、すべてが異なります。ですから、これらそれぞれ違うものをガイドラインという「ひとつの枠」の中に入れる作業には苦労が伴いました。また、新型コロナウィルス感染症の完全防止を目指した場合、「(まつりを)やらない方がいい」という意見や、「なんとか開催にむけた検討をしたい」という意見など、様々な意見が当然あります。この様々な意見・見解をいただきながら、新型コロナウイルスなどへの保健医療活動を主業務とする部局とも意見交換しながら、開催の基準については相当の議論を重ねて形にいたしました。結果、国等が出している指標と私たちが出したガイドラインの基準は若干異なっておりますが、それは各専門家や地域の方々とそれだけの議論を重ねた結果だからです。
また、まつりやイベントにおける新型コロナウィルス感染症対策の中で外せないのが飲食の対策です。先ほど話した「2021弘前さくらまつり」の場合は、飲食について細かく規定を検討しており、出店者に持ち帰りが可能なパッケージでの提供の義務付けや、食べ歩きの禁止、さらには、「飲食禁止」など注意喚起を記載したビブスを付けた警備スタッフが園内を定期的に歩きながらアナウンスを行うなどです。様々な対策をやってみて気が付いた点が2つあります。まず、仮にまつりを中止にしたとしても会場となる弘前公園内の管理が必要であることです。公園を開放している限り、まつりの有無に関わらず管理が必要でしょう。次に、まつり会場以外について、特に、公園周辺地域の飲食店への新型コロナウィルス感染症対策の声掛けです。行政的な話でいいますと、祭りを行う会場となる公園と公園外では市役所内での所轄が異なりますし、かつ、飲食店(自営業)となりますと商工会議所の管轄でもあります。このため、行政の各担当や商工会議所などに幅広く御協力のお願いをし、連携しながら開催に臨みました。結果として青森県では、独自に周辺飲食店への声掛けの徹底などの対応を進めていました。
繰り返しになりますが、①中止になっても会場を管理する必要がある、②会場外の飲食対策を関係機関と連携して進める…この2つは大切です。

開催に向けて必要なことは、共通のゴールにむけた関係各者の連携

山本 仰る通りですね。例えば青森の夏の祭礼として知られる青森ねぶた祭や弘前ねぷたまつりなども従来であれば来場者不特定ですし、会場の構造上どこにでも入れます。路上での飲みもあります。これらを徹底して対策を取るためには行政単独での対応では限界があり、主催者側からの呼びかけだけでも限界があると感じます。関係者でフォーメーションを組む必要がありますね。また、来場されるお客様、参加される皆様も対策への意識と徹底が必要でしょう。
鈴木 連携は大切ですね。例えば今、なにかのまつりで新型コロナウィルス感染症が拡大したら、この先2~3年はそのまつりは開催できなくなる可能性があります。これが弘前さくらまつりで発生したとしたら、弘前のさくらへの信頼にも関わります。地域の方々が、このような危機感、地域のまつりへの想いがないと、そもそも色々の取組はできません。青森では、「私たちの青森ねぶたをどう守っていくか」など、地域の皆様も深く考えています。まつりは、地域とってはただのイベントではなく、地域につながる大切な存在です。だからこそ危機感が自然発生的に意識として芽生え、これを関係者全体が共有することが大切なのだと思います。
山本 その上で、開催するためにこのガイドラインを活用し、自分たちのまつりをどうしたいかというゴール設定を地域で共有することが大切ですね。
鈴木 そう思います。「今年はまつりを開催する」という共通の意識を達成できたことは、「2021弘前さくらまつり」の大きな成果です。夏以降のまつりなど今後のまつりやイベントについても智慧を絞って考えていく必要があります。

ガイドラインは地域のためにつかえる「金棒」。目安です(鈴木)


 
祭り総研 ねぶたが完成~青森ねぶた祭中止に負けず「ねぶた共同制作プロジェクト」(*2)が立ち上がっていた
山本 少し具体的な話をしますが、開催に向けガイドラインを活用していくにあたり、ガイドラインの規定に違反した時はどうされますか?
鈴木 このガイドラインには、違反についての強制力はありません。ガイドラインはあくまでも目安であり、「これだけ徹底した対策が出来れば、安心安全に開催できる可能性が高いだろう」という目安でしかありません。ですから、このガイドラインを元に、地域個別に、地域にあったより安全安心なガイドラインを作っていただけたらと思います。ガイドラインの規定では中止に該当するフェーズであっても、主催者の皆さんが、圏域の感染状況を踏まえ、完全徹底した対策をとれると判断したのならば、開催に向けて取り組むこともできると思います。例えるならこのガイドラインは、コロナ禍でも、地域のまつりが安全安心に開催するための「鬼に金棒」的な存在であり、われわれも、いつでもご相談に応じます。
山本 なるほど!金棒を旨く利用していただきたいですね。また、今年の夏以降のまつりについては県内各地でばらつきがみられるかと思いますがいかがでしょうか。
鈴木 新型コロナウィルス感染症の変異型が発生し、東京を始め各地で緊急事態宣言が出ているような状況ですので、コロナ前・従来通りでの開催はもちろん難しいです。ですが感染防止対策を万全に取ることで、実行できる可能性がすこしでもあるようならば、開催の検討も視野に入れていただけたらと思います。もちろん、感染状況によりますが、今回策定したガイドラインを活かしつつ、さらに「これくらい対策を徹底できるのならやってもいいのではないか」と思えるくらいの厳しいガイドラインを目指すことで、開催の可能性を広げていけたらと思います。
山本 昨年同様、青森県の取組は全国のまつり関係者から注目されています。「開催するとしたらどうやるのだろう」と。皆様の青森モデルをぜひ我々としても伝えていきたいです。
鈴木 ぜひ。オマツリジャパンさんにも協力いただけたらと思います。なにより、対策についてアイデアをいただきたいと思います。我々地域側だけではアイデアには限界がありますから。「2021弘前さくらまつり」は飲食での感染場面を少なくすることがポイントと判断しましたが、他の地域のまつりで同じように対策が使えるかというと別の話です。今はワクチンに期待したいところですが、引き続き智慧を絞り、まつりをやるためにはどうしたらいいか、考えていきます。

「やめる決断」から「苦しい中でもやるための工夫」へ


山本 ぜひ!最後になりましたが、全国で同様に悩まれているまつり関係者へのエールなどいただけたら。
鈴木 やはり工夫次第だと思います。考えられる限りの対策を関係者・団体で連携していけたら、まつりを開催できる可能性が生まれると思います。「やめる決断」も重要ですが、出来る限り「苦しい中でもやるための工夫を」と我々は思っております。ガイドライン策定という取組自体、青森県民も我々行政もみんなが「青森のまつりが私たちにとって大切で意味ある行事」だと思っているからこそ取り組めた部分があります。もちろん、色々の意見があるでしょうし、当然、中止の声もありますが、われわれ観光部局としては、できる限りの対策を徹底していく姿勢をお見せすることでご理解をいただけるよう取り組んでおります。
山本 やめる決断よりやるための工夫を地域で連携して取り組むという青森県のご姿勢は全国の祭礼関係者にとっても励みになると思います。本日はありがとうございました。

【祭り総研所見】

北を代表する夏祭りである青森市の「青森ねぶた祭」は、新型コロナウイルスの感染が広がっていることからこの夏の開催を見送ることを決定しました。NHKによると、6月18日に青森市内で開かれた実行委員会で「リスクが大きすぎるという結論に至り、大変残念だが断腸の思いで中止という決断をはからないといけない。なんとか来年こそは3年越しの思いをこめたねぶたは絶対にやりたいと思う(奈良秀則委員長)」とコメントがありました。
今回のガイドラインは、今年こそはオフラインで「なんとしても開催したい」という地域の声から青森県が中心となって疫学専門家とオマツリジャパン含めた祭り専門家の有識者がサポートして作成してきました。ですが、祭りの本質を保った安全安心な開催という最も核となる部分がこの状況下ではクリアにできませんでした。
こういった状況において、地域文化を継承し、コミュニティをつくり、経済を動かす祭りはどう開催されるべきか、そもそも祭りが祭りたる本質が何かを見極め、関係者で合意形成を図り、「今できること」を行うことが実施していくことが大切だと考えています。私たちオマツリジャパンは、「今できること」を皆様と共に考え、ともに取り組んでまいりたく思います。
報道によると、ねぶたの運行団体で作る協議会は、財政面の支援や完成したねぶたを披露する機会などを求める要望書を実行委員会に提出していて、祭りに代わるイベントなどについて検討が進められるということです。
私たちは青森ねぶた祭を始めとする青森県の皆様の御活動を今後も応援してまいります。
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ざきさん

この記事を書いた人

ざきさん

山崎敬子(やまさき けいこ)

1976年生まれ。実践女子大学院文学研究科美術史学専攻修士課程卒。大学在学時から三隅治雄・西角井正大両先生から折口信夫の民俗芸能学(折口学)を学び、全国の祭礼を見て歩く。現在、玉川大学芸術学部や学習院大学さくらアカデミーなどで民俗芸能の講座を担当しているほか、(一社)鬼ごっこ協会・鬼ごっこ総合研究所、(社)日本ペンクラブ、(株)オマツリジャパンなどに所属し地域活性事業に取り組んでいる。ほか、日本サンボ連盟理事 。

【実績一例】
編集:『年中行事辞典』(三隅治雄・編/東京堂出版 2007年)
共著:『メディアの将来像』(メディア文化研究所・編/一藝社2014年)
著書:『にっぽんオニ図鑑』(じゃこめてい出版 2019年)
脚本:朗読劇『イナダヒメ語り』(武蔵一宮氷川神社 2018年)ほか
コラム:
「鬼文化コラム」:(社)鬼ごっこ協会 
「氷川風土記」:武蔵一宮氷川神社 など
漫画:
「北越雪譜」4コマ:協力/鈴木牧之記念館(新潟県南魚沼市塩沢1112-2)

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