近年急速にトレンドとなっている「文化観光」
しかし自治体・行政施設で働かれているあなたは、同僚や上司、部下に、この概念を正しく説明できていますか?
令和2年に文化観光推進法が成立したことを皮切りに、世にあふれだした「文化観光」。その言葉にはさまざまな解釈があり、理解するため多くの時間がかかってしまうのが現状です。
記事ではまず文化観光について、国が発信する資料を抜粋。概要をまとめていきます。
その後、オマツリジャパンの文化観光スペシャリスト、企画営業部長・大山勝廣さんにお話を聞き、実際の現場ではどう捉えられているのか、解説と課題、背景となっているトレンド、今後の動向を解説。
自治体で観光事業に携わる方々が、文化観光とは?についてマスターできる内容をお届けします。
今後のトレンド“文化観光”法律上の捉え方とは?
近年、観光庁や文化庁、文部科学省などから発信されている“文化観光”というワード。一体どういったものなのか、それぞれが公表している資料から読み解いてみましょう。
文化観光とは、文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(以下「文化観光推進法」)を根拠に提唱されている新しい観光の概念です。
文部科学省の“文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律案”のPDFでは、文化観光について、次のように定義されています。
「文化観光」「文化観光拠点施設」の定義
文化観光:文化資源の観覧等を通じて、文化についての理解を深めることを目的とする観光
文化観光拠点施設:以下を満たし、地域における文化観光の推進の拠点となるもの
①文化資源の保存及び活用を行う施設(文化資源保存活用施設※1)のうち、
②観光旅客が文化について理解を深めることに資するよう解説・紹介するとともに
③文化観光の推進に関する事業を行うもの(文化観光推進事業者※2)と連携するもの
※1 博物館、美術館、寺社仏閣等
※2 観光地域づくり法人(DMO)、観光協会、旅行会社等
つまり法律において文化観光とは、文化をただ発信するだけでなく、その歴史や背景・内容を伝えていくこと、と定義されているのです。
加えてその狙いは、文化観光を行うことで文化財自身が保存費用を生み出し補助金に頼らない好循環なサイクルを生み出すことにあります。
文化観光をより現実的に捉える 文化庁noteで定義されている、現場への落とし込み方
法律上の表記で文化観光は、これまで補助金で賄われていた文化財の保存費を文化財自身に生み出させていくことと捉えられます。
しかし各自治体の現場においては、この考え方を今すぐに達成するのは、非常に困難。高すぎる理想のため、そこにリソースを割くだけの価値を見いだせないのが現実です。
こうした状況を受け、国の発信にも変化が見受けられてきました。
文化庁HPのお知らせ、“文化庁文化観光noteの開設について(令和3年11月15日)”ではこのように解説されています。
文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(以下「文化観光推進法」という。)が,第201回国会(常会)において成立し,令和2年法律第18号として公布され,同年5月1日に施行されました。
文化観光推進法は,文化の振興を,観光の振興と地域の活性化につなげ,これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出することを目的とするものです。
文化施設が,これまで連携が進んでこなかった地域の観光関係事業者等と連携することによって,(中略)文化施設そのものの機能強化や,さらに地域一体となった取組を進めていくことが必要となります。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/index.html
文化財の魅力をパッケージングし、いきなり自走化を目指すのではなく、まずはこれまでのように補助金を得つつも新たな切り口で魅力を捉え直し、他の事業者などと協力しながら、たくさんの人に文化財のおもしろみを伝えていく。
そうして得た収益を文化財に投資することで、さらに洗練された魅力を発信し、その地域ならでは強みとしていこう、という考え方です。
最大のゴールは、文化財の魅力を魅力をたくさんの方へ伝えていくこと。結果的に収益が上がり補助金に依る割合を減らしていくことが可能となります。
より現実に即した捉え方で必要となってくるのは、これまでとは違った切り口で文化財の背景や歴史を伝えられるように編集し、その魅力をたくさんの人へ発信していくこと。
この一連の流れが、さまざまな現場で取り組まれている“文化観光”の捉え方といえるのです。
文化観光がトレンドとなっている背景と今後の動向とは……?
これまでのような内容で、国が主導となり進められている文化観光。しかしなぜ今、活動が活発となっているのでしょうか?そして文化財に携わる方々は、具体的にどういったことを進めていけば良いのでしょうか?
文化観光に関する疑問について、オマツリジャパンにおける文化観光のスペシャリストである、企画営業部長・大山勝廣(おおやまかつひろ)さんに話を伺いました。
大山 勝廣/2018年春にオマツリジャパンに入社以降、全国各地の自治体と連携して様々な事業に従事してきた。2021年度には文化庁の高付加価値化事業に関して4地域にて従事し、お祭りを含めた地域文化のブランディングに取り組んできた。宮崎県高千穂町では、クリエイティブディレクターや制作会社と連携して重要無形民俗文化財「高千穂の夜神楽」と高千穂町で受け継がれてきた「暮らし」の魅力を伝えるブランドサイトの立ち上げなどに関わった。この他にも様々な事業に関わった経験を活かし、オマツリジャパンの中で文化観光の推進を勤めている。高千穂町 ブランドサイト:https://takachiho-cho.com/
——国主導で取り組まれている文化観光ですが、なぜ今行われているのでしょうか?
「文化観光の考え方には近年広まっている、ある消費傾向が背景にあります。それはいわゆる“コト消費”と呼ばれる傾向です。
これまでの消費傾向は、商品やサービスの機能自体に価値を感じ消費を行う“モノ消費”といわれるものでした。しかしインターネットや新しいテクノロジーの発達により、どの製品を買ってもニーズが満たされるようになった現在、消費者は『消費によってどんな体験が得られるのか?どんな未来がつくられていくのか?』に価値の重点を置くようになっているんです。こうした消費傾向を“コト消費”と呼びます。(※1)
“有形の文化財を見て、無形の文化財を体験する”文化観光は、まさにコト消費。消費傾向の世界的なシフトを加味して、国は現在、文化観光の推進を行っているんです。」
——世界的にそういった動きがあるんですね。
「加えて、日本がこれから突入する高齢化社会に対しても、文化観光は大きな効果を発揮します。
これから超高齢化社会を迎える日本では、平均寿命の高さから、定年後もアクティブに活動するシニアが多くなる見込みです。すでに定年後のやりたいことランキングには“旅行”が上位に食い込んでおり、需要の大きさが窺い知れます。
“旅行”といっても彼らが価値を感じるのは、ありきたりな観光地ではなく、自己の探求分野において意義を持った文化や施設です。これまでの人生で、機能的な“旅行”は、すでに多く経験した、というのが主な理由のようですね。
また期せずして起こったコロナウイルスの流行も、リベンジ消費の観点から文化観光にとってプラスに働くと考えられています。(※2)」
「文化観光を実行するには、祭りや食、自然といった、それぞれの地域が持つ魅力を改めてピックアップしていくことが必要です。
その上で理想となるターゲットを定め、彼らに楽しんでもらえるような、新たな文化財の切り口を見つけていかなければなりません。
加えて、彼らへ魅力を届けていくための継続的な発信力も求められてきます。
まとめると、文化観光を実現するためには・魅力の抽出・ターゲットに合わせたストーリーの再編集・継続的な発信、の3つのポイントが大切となってくるのです。」
(※1)「モノ」から「コト」の時代にITサービスマネジメントが求められる理由 —日経ビジネス
https://special.nikkeibp.co.jp/atcl/NBO/18/servicenowjapan1213/
(※2)『リベンジ消費に関するアンケート調査』ワクチン接種後に最もやりたいこと 1位「国内旅行」 2位「みんなで集まって会食」 3位「海外旅行」—PR TIMES (調査元 CCC マーケティングカンパニー)
この記事を書いた人
地域のお祭りやインタビュー、由来を調べるのが好き。いろんなお祭りを知りたいと思っています。