2020年5月に「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律」という新しい法律が施行され、文化庁が中心となって推進している“文化観光”。オマツリジャパンでも“ブンカジャパン”というサービスで民間側から推進しています。
“文化観光”は文化の保存と活用の両立を目指す画期的な概念ですが、一方で抽象的でなかなか理解が難しい考えでもあるのも事実。具体的に何から始めればいいのでしょうか?
今回はそんな“文化観光”について、文化庁で文化観光推進コーディネーターとして活動している丸岡様とオマツリジャパン・共同代表山本が対談。これまでの経験で感じたことや事例を交えながら、文化観光の取り組み経緯や、鍵となってくる行政の役割などを伺いました。
丸岡直樹様
■官公庁
2017年7月~2019年3月に、国土交通省観光庁に出向し、地域創生・規制改革を推進。
2021年2月~より、文化庁参事官(文化観光担当)付に出向し、文化観光推進コーディネーターとして、文化と観光、官と民、ローカルとグローバルをつなぐ役割を果たす。
■バリューマネジメント(株) 社長室シニアマネージャー
「文化を紡ぐ」を理念に掲げ、地域内に点在する歴史的資源をつなげる「まちの事業化」で歴史的資源を保存・活用し、観光需要を取り込むことで地域の価値創造サイクルを構築。
篠山城下町全体をホテルに見立て活性化を生む官民連携の観光まちづくり、旧酒蔵や旧銀行の有形文化財をホテル・レストランとして改修し、文化財を守る等の事業を行う。
目次
1.“文化観光” 施策を構築していくなかで気がついた可能性
まずお聞きしたいんですけど、“文化観光”ってどういった経緯で始まったのですか?
はい。文化庁では、これまでも文化資源の保存・活用について推進してきましたが、インバウンドの「モノ消費」から「コト消費」への消費スタイルのシフトに代表されるように、文化の体験・体感の提供が重要となっていました。
こうしたなかで、当時2020年に予定されていた、東京オリンピックを契機に、文化観光の推進を一層加速させるべく、新法の制定などに取り組みました。
オリンピックに際しては多くの外国の方の来日が予想されており、彼らに対して、より深いレベルで日本の文化を楽しんでいただきたいという想いがあったんです。
今までの観光のなかでは、どうしても注目を集める、キャッチーにしてお金を落としてもらう必要があるために、文化のいち部分を切り取りすぎてしまったり、過度な編集がおきてしまったりしたように思います。同時に、文化の伝え方についても、時系列で延々と固有名詞と情報が連なっていて、読んでいて楽しくないものも多かった。それぞれ良さもありますが、
文化財の楽しさ・奥深さは、もっとちゃんと伝えることができる。
そういった考えのもと、“文化観光”に取り組んでいきたいと思っています。
確かに。お祭りでも見た目の良い賑やかしの部分が先行してなかなか本来の祭りの本質や意味合いが伝わりづらいケースはよくありますね……。
お祭りも文化の一つの形ですので、同じ課題が発生しているのでしょうね。
いざ文化観光について考えを巡らせていくと、文化文化の価値を観光として伝えることを通じて、良き関係を経済的にも築けることがわかってきました。
文化資源は文化を守る地域の方、保存や継承を支援する自治体や企業、団体など様々なプレイヤーが協力して成り立っています。
官民が一体となって、文化財の価値をしっかりと発信し、コンテンツ化していくと、自然と適切な収益が発生します。そしてその収益は、演舞の踊り手や神輿の担ぎ手、伝統工芸品の生産者といった、文化の担い手に還元され、文化の保存や後継者の育成などに活用されていきます。
つまりは考えを深め、価値を伝えていくことで、文化観光には文化の担い手と消費者の間に、経済の好循環を生み出す効果がある、とわかってきたのです。
たしかにそうですね。
祭りや地域文化を後世まで継承させるため、必要な資金をどう調達するか?というのは大きな課題の一つでした。そういったなかで、国が先導となり好循環の創出を推進し新たな継承モデルを造っていくことには深く共感をします。オマツリジャパンではこれまで、いくつか文化観光に関する記事も発信していますし、民間の立場で先頭でこの考えを推進していきたいですね。
オマツリジャパンの文化観光に関するこれまでの記事
文化観光とは?スペシャリストに内容をわかりやすく解説してもらいました!
https://company.omatsurijapan.com/wasshoicv/bunkakankou/
文化観光を行いたい自治体様へ!実績多数のオマツリジャパンがサポートいたします
https://company.omatsurijapan.com/wasshoicv/column/bunkakankou-2/
2.文化とは?地域と関係を築くコツとは? 文化観光の疑問を質問
これはそもそも論になってしまいますが、せっかくなので聞きたいところでして、丸岡さんは、“文化”をどんなモノだと考えられているのでしょうか?
そうですね、私としては、古き良きモノだけが文化ではなく、今新たに生まれている、誰かが想いを持って伝えていきたいモノも、文化だと考えています。
なるほど、確かに古くからあるものだけでなく、今では例えばアニメや漫画も日本の文化として世界に認められていますもんね。
有名なところだと新潟県十日町市で、自然を活かしながら現代アートでお祭りを行っていましたね。
現代アートも、現代における文化といえます。
十日町市の事例は、自然と現代アートが絶妙にマッチし、ファンを増やした事例といえますね。
文化というモノは、未来の人たちが過去を振り返った際に、その時代を象徴と捉えられるモノのことだと思うんです。
たしかに、過去の古き良き文化を大切にしていくことは大切ですが、そればかりしていると、今、僕たちの時代の文化が生まれていかない。
そうなってしまったとき、何十年か後に『あの時代の人たち何をしてたんだ?』となってしまったら、悲しいなと思うんですよね……。
過去のものを見ていくだけでは文化は生まれていきません。
過去、現在にとらわれず、想いを持って伝えていきたいモノ。経済合理性だけを突き詰めるだけであるならば必要ないけれど、それでもなぜか無くしたくないモノ。
文化庁としても、僕個人としても、そういったモノを文化として捉えています。
ありがとうございます。とても参考になりました。
文化庁で活躍をされている丸岡さんだからこそ、お聞きしたいのですが、オマツリジャパンのような民間企業が地域と関係を紡いでいく際に、大切になってくることとはなんなのでしょうか?
地域と関わっていく際には、文化の担い手と民間の事業者がお互いの背景を知った上で協力していくことが大切です。
そのために重要なのは、企業側が文化の担い手にしっかりと想いを伝えることです。また双方の事情を理解しそれぞれの想いを伝えられる、行政などの仲介者がうまく機能できるか?といった点も重要となってきます。
想いを伝えていく、理解していく、というのは容易ではありません。
なかには、協力できるはずだったのに伝え方の部分に問題があり、誤解が生まれ、関係が悪化してしまったケースもあります。
そういったケースを防止し活動を円滑化していくためには、場合にもよりますが、行政が間にたち、お互いの背景を噛み砕いて説明することも大きな役割を果たすのです。
たしかに。オマツリジャパンで各地のサポート活動をしていますが、地域の保存会の方との間に行政の方が潤滑油として入っていただくケースだと、うまく行ってる場合が多い気がします。
やはり顔の見知った関係というのは、大きいですよね。
『行政の〜さんがいうのであれば……』と、地域の方の心理的なハードルも低くなり『お客様を喜ばせたい』という想いのもと、官民や地域が一体となっていきやすいんです。
3.保存と活用を両輪 実例を交えながらポイントを解説
さて、実際に文化観光の活動をしていく際に、意識した方が良いポイントにはどういったものがあるのでしょう?
文化観光を体現していくためにポイントとなってくるのは2つ。
文化財の魅力をしっかりと理解することと、循環の仕組みを整えることにあります。
特に収益を整える仕組みは、オマツリジャパンのような民間の方々が得意な分野だと思います。
文化の担い手と民間企業の方々が、タッグを組むことで、表層的な発信だったこれまでの状態から、本質的な価値の発信ができる未来がつくれる。
私たちは、そう考えています。
なるほど、マネタイズというと下世話に聞こえるかもしれませんが、地域文化を継続するため、時代にあった資金調達モデルを構築していくことは重要だと考えています。それがなかなかできていない、というのが各地の課題だと考えているので……。
特に資金だけでなく、ヒト・PRなどの課題では地域の自治体の方々と連携してアクションを取っていくことが大切ですね。
ところで文化観光の概念が構築されている最中にコロナ禍を迎えていますが、このあたりはなにか影響がありましたか?
そうですね、実際に文化観光という概念を動かしながら感じたのは、文化に対してすごく前向きな変化が起きていることでした。
文化観光はご指摘の通りコロナ禍前から準備を進めていたもので、より一層推進しようとしたところでコロナ禍を迎えています。
しかし、コロナ禍によって社会の豊かさ、大切なものとはなにか?が見直されるようになり、結果、文化に対する好意的な意識の変化が見られるようになったのです。
それによって、担い手、民間企業、行政、それぞれが歩み寄るようになり、今まででは考えられなかったような、文化の担い手と企業のタッグも見られるようになっています。
例えば、愛媛県大洲市では城下町といった立地を生かして、多くの専門家からお話を受けながらお城に宿泊できるツアーが造成されています。
それこそ山本さんは、静岡県熱海市の花火大会で桟敷席のクオリティを向上させたコンテンツを支援していましたよね。
そうですね。
文化庁の事業で昨年熱海市で静岡の煙火店が集結して新たな価値を提供した花火大会をコーチングとしてサポートしました。
これまで花火大会は無料に近い金額で開催されていて、請負企業である煙火店は、コロナ禍でかなり追い詰められていた状況でした。
今回の取り組みはそういった課題を打破するために高付加価値の花火大会を開催しようという試みで、地元の煙火店はもちろん、熱海市、観光協会、旅館組合が官民一体で取り組んだ成功事例となりました。
4.文化庁による伴走支援サポート 文化観光のこれから
最後に、文化庁ではこれから文化観光をどうやって進めていくのでしょうか?
文化観光推進法が施行して、2022年で3年目を迎えます。
これまで全国のさまざまな地方に足を運んできました。そのなかで感じたことは、多くの地域が共通の課題を抱えているということです。
我々としては、そういった方々を勇気づけるため、地域の方々の希望となるような成功事例を、少しでも早くつくり上げていきたいと考えています。
文化の担い手と民間の事業者がタッグ組むことはなかなか難しいですが、『来訪者をどう喜ばせるか?』といった点で、必ず一緒の視点を持てるはずなんです。
ですが、文化の担い手と民間の事業者のタッグが実現したのちにも、様々な課題が存在します。
現在、私たち文化庁ではそういった方々に向けて、ノウハウを提供するための専門家派遣など支援の体制を整えているところです。
今年度も、こうした伴走支援など様々なバックアップの体制を整えていく予定です。
現場を何とかしたい、今の構想よりも良いモノ造っていきたいと考えている方は、ぜひご連絡いただけたらと思います!
この記事を書いた人
地域のお祭りやインタビュー、由来を調べるのが好き。いろんなお祭りを知りたいと思っています。